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新婚旅行の思い出

新婚旅行の思い出

新婚旅行の思い出が詰まったホテル

新婚旅行の思い出が詰まったホテル

クリスマス前のある日。一人の紳士が訪ねてきた。

「何かお探しですか?」

『いやいや、ちょっと下見に来たんだよ』

「ご宿泊のご予定でございすか?よろしければご案内させていただきますが。」

『来月予約してるんだけどね。24日に、家内と二人で』

「ありがとうございます。クリスマスですね。お二人で素敵ですね~
その頃にはクリスマスの出飾り付けも、させていただく予定になっております。」

『あなたは?』

「申し遅れました。総支配人をしております関野と申します。」

『いつから?』

「1年ほど前からでございます。」

『じゃあ知らないね、ここは昔東映ホテルだったよね』

「そうでございますよね。そこは存じております。その頃にお越しいただいてましたか?」

『新婚旅行でね。50年前のことだったけど、昔のままだね。懐かしいので来月のホテルはここにすることに決めたんだよ。』

「ありがとうございます。
クリスマスらしいことはあまりできないかもそれませんが、チキンとシャンパンとちょっとした演奏会は行う予定でございますのでお楽しみいただけるかと思います。」

『この歳だから美味しいもの少しあれば十分ですよ。』

『あと、車椅子平気かな?家内が歩けないけど、どうしても連れてきたいと思ってね』

「申し訳ございません。バリアフリーにはなっておりません。館内は問題ありませんがお風呂が厳しいと思います。介助できる女性スタッフがおりませんので・・・
普段はどうされているのですか?」

『施設に入っていて、よくわからないんだよ。』

「もしよろしければ貸切露天風呂がございますがご覧いただけませんでしょうか?」

最上階までご案内し、貸切露天風呂を見て頂く。

「ここの段差は私もお手伝いさせていただきます。」

入り口の段差はクリアできそうだ。問題は浴槽に入れるかどうか。

「いかがですかね?ご主人一人で入れてあげることは可能ですか?」

『ん~ 家の風呂はもうだいぶ入ってないからできるかどうか』

「湯着とかお着せていただければ、私がお手伝いさせていただきますがいかがでしょう?」

『湯着?』

「お風呂にはいることができる浴衣のようなものです。もしどちらかでご購入いただいて、当日奥様にきせていただけましたら男の私でもお手伝いできると思います。」

『そんなことまでしなくても』

「いいえ。実は今年の2月に母を亡くしておりまして、温泉大好きな母を連れてくることができなかったことを後悔しております。きっと母と同じくらいの年齢だと思いますので、
息子に頼んだ気持ちでお願いできたらと思っております。」

『まあ息子たちを連れてくれば問題ないんだけど、今回は二人で来たかったんだよ。』

「では差し出がましいですが、私にも親孝行させていただければと思います。」

『いや~ 申し訳ないね。じゃあ、お願いするかな』

貸切露天風呂から出て、お部屋をご案内。そしてレストランをご案内したところで

『ありがとう。家内を待たせているから、そろそろ戻ります。』

「大変申し訳ございません。長引かせてしまって。山田様 24日はスタッフ一同心よりお待ちしております。くれぐれもお気をつけてお越しください。行ってらっしゃいませ。」

エントランスまでお送りしたところ、お車に奥様らしき人影。

やはり母と同じくらいの年恰好だった。

私をみつめて、手をふってくださった。

私も思わず手を振った。

「母さん」

さあ今日も頑張るぞ!

ハンカチを取り出し、涙を拭いてフロントに戻った。

「あ、総支配人。この前はありがとう。クリスマスの予約だけど、家内はいけなくなってしまったから・・・」

突然のご連絡。胸騒ぎがする。

『え?体調がすぐれないとかでしょうか?』

「いやいや。先に旅に出発してしまってね」

電話口で声をつまらせていた。

「せっかく親切にしてくれたのに申し訳ないね。家内も温泉に入れること楽しみにしてたんだけどね~」

『山田様心中ご察しいたします。ご予約の件はどうぞお気になさらないでください。残念ですが、きっと・・・』

言葉にならない。
涙があふれてきた。

「でね。その予約なんだが、二部屋にしてほしいんだよ。息子たちに話したら、是非行こうということになって。
息子夫婦と孫たち連れて、母さんの思い出を語ろうってことになったんだよ。私たち夫婦のスタートの場所で。」

『さようでございますか。ではご予約はそのまま、一部屋追加させていただきます。ありがとうございます。もしよろしければですが。奥様のお好きだった歌とか思い出の曲など、ございましたらお聞かせいただけませんでしょうか?』

「ありがとうね。乾杯って歌あるよね。妻は大好きで、よく聞いていたんだよ。」

『長渕剛ですかね?』

「そうそう。他にもあった気がするけど、あの曲がいちばんだね~」

『かしこまりました。準備させていただきます。くれぐれもお気をつけてお越しください。』

「大丈夫。今度は息子が運転していくから、心配いらなよ」

『ありがとうございます。当日は奥様の思いでをお聞かせいただけたらと思っております。お待ちしております。』

お風呂のお手伝いはできませんでした。でも奥様のこと、お母様のことを語り合える最高のクリスマスナイトに、ほんの少しお手伝いさせていただきます。

24日は夕食の時に、スタッフがサックスで「乾杯」を演奏いたします。その他にも数曲クリスマスソングを生演奏させていただきます。

皆様も是非、クリスマスを大切な人とお過ごしください。